英検問題形式リニューアルの内容とは?
日本英語検定協会は2023年7月6日に2024年度第1回英検から、出題の一部を改訂するとの発表を行いました。
参照元:実用英語技能検定(英検)の問題形式 一部リニューアルのお知らせ
改訂内容で一番大きな変更と言えば、1級~2級のライティングにおいて、従来の「意見論述」問題に加えて、英文の「要約」問題が追加されることではないでしょうか?
英文の要約に関する出題は大学入試においてもほんの一部の大学が扱うのみであり、経験がない受験者が大多数だと思います。そこで当記事では英検協会から発表があったサンプル問題の中から、準1級の「要約」問題を実際に解いた上で、「要約」問題に取り組む際に必要な考え方を紹介します。
サンプル問題の紹介
こちらが英検準1級のWriting分野で出題される「要約」問題のサンプル問題です。
以下の英文を60~70語に要約しなさい ※実際には問題文も英語で出題
From the 1980s to the early 2000s, many national museums in Britain were charging their visitors entrance fees. The newly elected government, however, was supportive of the arts. It introduced a landmark policy to provide financial aid to museums so that they would drop their entrance fees. As a result, entrance to many national museums, including the Natural History Museum, became free of charge.
Supporters of the policy said that as it would widen access to national museums, it would have the opportunity to experience the large collections of artworks in museums and learn about the country’s cultural history.
Although surveys indicated that visitors to national museums that became free increased by an average of 70 percent after the policy’s introduction, critics clamed the policy was not completely successful. This increase, they say, mostly consisted of the same people visiting museums many times. Additionally, some independent museums with entrance fees said the policy negatively affected them. Their visitor numbers decreased because people were visiting national museums to avoid paying fees, causing the independent museums to struggle financially.
出典元:実用英語技能検定(英検)の問題形式 一部リニューアルのお知らせ 「要約」問題出題例 準1級
日本語訳(当ブログで作成)
1980年代から2000年代初頭にかけて、イギリスの多くの国営の博物館は訪問者から入場料を徴収していた。しかし、選挙で選ばれた新政権は芸術を支持した。政府は博物館の入場料が下がるように財政的支援を行うという画期的な政策を導入したのである。その結果、自然史博物館を含む多くの国立博物館の入場料が無料になった。
出典元:実用英語技能検定(英検)の問題形式 一部リニューアルのお知らせ 「要約」問題出題例 準1級 を和訳
この政策の支持者たちは、国立博物館へのアクセスが広がることで、博物館に収蔵された数多くの美術品に触れ、国の文化的歴史を学ぶ機会が得られると述べた。
調査結果は無料化された国立博物館への入場者は、政策導入後、平均70%増加したことを示しているが、批評家たちはこの政策が完全に成功したとは言えないと主張した。彼らが言うには、この増加は何度も博物館を訪れた人によるものである。さらに、入場料を徴収しているいくつかの独立系博物館は、この政策が彼らに悪影響を及ぼしたと述べている。人々が入場料の支払いを避けるために国立博物館を訪れるため、独立系博物館の入場者が減少し、財政的に苦境に立たされているのだ。
元の文書は184語であるため、60~70語に要約するためには英文を約3分の1の長さにする必要があります。
解答のための考え方
英文の内容を整理してみよう
まずは英文の内容を段落ごとにまとめてみましょう。
各段落で述べている内容を簡潔にまとめると以下の通りになります。
第1段落 導入文
- 近年(2000年代初頭以降)イギリス政府は国立博物館の入場料を無料化した。
第2段落 賛成意見の紹介
- 入場料無料化の支持者は、国民が美術品や文化的歴史に触れる機会を増加させると述べた。
第3段落 反対意見の紹介
- 入場料無料化の批評家は、入場者の増加はリピーターによるものだと述べた。
- 入場料を徴収している独立系博物館は、人々が入場料を避けるために国立博物館を訪れるため、(入場者が減って)財政的に苦しんでいると批判した。
第1段落でイギリス政府が国立博物館の入場を無料化したことを取り上げて、その後、第2段落で無料化に対する賛成意見、第3段落で反対意見が述べられていることがわかります。
「導入文⇒賛成意見⇒反対意見」の流れは2級のサンプル問題でも採用されているため実際の試験でも似たような形式で出題される可能性が高いでしょう。
英文を要約するために必要な事
英文の内容を理解した上で、要約を行うには以下の4つが大切です。
- 英文をより短い表現に書き換える。
- 具体例はできるだけ割愛する。
- 段落構成は基本的に元の英文と同じにする。
- 自分の意見は書かない。
それぞれの項目について簡単に説明します。
英文をより短い表現に書き換える。
「要約」問題では元の文書に書いてる表現をそのまま書き写してはいけません。
書き写すだけでは語数は短くならない上、英語力が評価されることはありません。
例えば下記の例な文であれば、「入場料が無料になったこと」が伝わればよいので、「彼ら(イギリス政府)は入場料を廃止した」と書き換えることができます。
(元の英文)
Entrance to many national museums, including the Natural History Museum, became free of charge.
(書き換えた例)
They abolish entrance fees in many national museums.
具体例はできるだけ省略する。
語数制限の都合上、要約文に具体例を書き込む余裕はありません。具体例はバッサリと省きましょう。
例えば「自然史博物館を含む」や「入場者数が70%増加した」という具体例は割愛しなげればならないでしょう。
段落構成は基本的に元の英文と同じにする。
段落構成は基本的に元の英文を踏襲しなければなりません。
例えば今回のサンプル問題では、第1段落「入場料の無料化」⇒第2段落「賛成意見」⇒第3段落「反対意見」となっていますが、要約文においていずれかの段落に全く触れなかったり、段落の内容を入れ替えたりしてはいけません。
特に語数制限をオーバーしそうになると具体例だけではなく段落ごと省きたくなりますが、絶対にやらないでください。
自分の意見は書かない。
従来の「意見論述」問題と異なり「要約」問題では自分の意見は書いてはいけません。
極端な例ですが、今回のサンプル問題において「私は博物館の入場料無料化に反対です。」などと書くと大幅な減点になることでしょう。
あくまでも元の英文に書いてあることだけを抜き出すようにして下さい。
サンプル問題の解答例
英文の内容と要約に必要な知識を理解した上で、サンプル問題の解答例を確認してみましょう。残念ながら英検協会より解答例の公表は無いため、AI(ChatGPT)が作成した解答例と当ブログで作成した解答例の二つを紹介します。
解答例 (AI(ChatGPT)が作成)
ChatGPTに70語以内でサンプル問題を要約させた文章です。
In the 1980s-2000s, UK national museums charged fees. A new pro-arts government funded museums to eliminate fees, making places like the Natural History Museum free. Advocates saw this enhancing access to art collections and history. Although visits rose by 70% on average, critics said it was repetitive visits. Some fee-based independent museums suffered as visitors chose free national ones, hurting their finances. (62 words)
サンプル問題の文章のすべての要素が一通り述べられており、とても簡潔な文章になっていますが、英検準1級受験者にとって難易度が高すぎる言い回しが多用されており、試験当日にこの文章を書くのは限りなく困難でしょう。
また要約という面では、元の文章を短くなるように加工しているだけであり、文章全体で伝えたいことがまとめられていないという問題点があります。
解答例(当ブログで作成)
英検準1級受験者が使える語彙や言い回しを用いた上で、サンプル問題の文章の趣旨を要約した解答例を紹介します。
The government’s policy of abolishing entrance fees in many national museums in Britain has become a controversial topic. Supporters said that offering free entrance would increase access to art collections and cultural history. On the other hand, Critics claimed that increasing attendance figure comes from frequent visitors. Furthermore, Some independent museums with entrance fees said they suffered financially because people were visiting national museums to avoid paying fees. (68 words)
最初の文で、新しいポリシーは賛否両論の議題(a controversial topic)であると述べた上で、その後の文で賛成派の意見と反対派の意見の両方を簡潔に説明しています。
また接続副詞(On the other handやFurthermore)を用いることで、それぞれの意見の関係性を明確にしました。
最後にできるだけ関係代名詞などを使わずに名詞(frequent visitorsなど)を効果的に使うことで、語数制限に収まるように調整しました。
※上記解答例は当ブログ独自で作成しており、英検協会から正式に発表されたものでは無いため、満点を保証するものではありません。
まとめ
英文の「要約」問題で高得点を取るためには、元の英文で骨子となる意見を抽出した上で、語数制限に収まるように表現を書き換える必要があります。また段落同士の関係性が明らかになるように、効果的に接続詞などを使わなければならないでしょう。
課題に合わせて自分の意見を答える「意見論述」問題とは異なる英語力が試される出題になりそうです。
「要約」問題含む2024年度からの英検の変更点や、「要約」問題の勉強法について知りたい方はこちらの記事もご覧ください。
おまけ:イギリスの博物館無料化についての補足知識
イギリスの博物館無料化は当時の労働党政権により2001年12月から全面的に実施されました。1980年代に共和党政権により一旦は有料化が進んだ博物館でしたが、社会的な階級が高い層だけではなく全てのイギリス国民が美術品にアクセス出来るよう再び無料化されました。また以下の記事では、現在では入場料無料化は他の国から半ば強制的に奪取した美術品を展示していると批判されているイギリスの博物館の対外的な免罪符として機能しているのではないかと考察しています。
参考元:イギリスにおける国立博物館の「入場無料」政策の維持と文化財返還請求をめぐって
(IDE-JETRO 独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所 海外研究員レポート)