ネイティブレベルの英語力を目標にしない方がいい理由【いばらの道】

英語学習を頑張ろうと思っている人の中には、いつかは「ネイティブレベルの英語力」を身に着けたいと考えたことがある人もいるのではないでしょうか。

しかしながら本当の意味でネイティブレベルの英語力を目指すのは一度考え直した方がいいかもしれません。

英語学習を推進する当ブログでどうしていきなり出鼻を挫くような言葉を述べるのか疑問に思うかもしれません。

しかしながらネイティブレベルを目指すことがいかに「いばらの道」であるか、そしてそれに見合うメリットがあるか考えることも大事だと考えています。

なぜ英語のネイティブスピーカーに憧れるのか

初めに日本人が「英語」のネイティブスピーカーに強く憧れがちな理由を考えてみましょう。

逆になぜヒンディー語やアラビア語のネイティブスピーカーに憧れる人が少ないのか考察してみましょう。

理由① 英語を勉強している人が多いから

英語のネイティブスピーカーに憧れる人が多い理由として、単純に英語を勉強している人や英語を話す人が多いからと言えます。

例えば野球をしている人の中には、プロ野球の選手になりたいと思う人もいるかもしれませんが、全く野球に興味がない人であれば強くプロ野球選手に憧れる人は少ないはずです。

英語はすべての日本人が義務教育で一度は学習する内容であるため、その中にはある意味英語力の最高峰であるネイティブスピーカーに憧れる人が出てくることは自然でしょう。

理由② 欧米人や欧米文化に対する憧れがあるから

実は心の奥底で欧米人や欧米文化に憧れを抱いている人はかなりいると思われます。

例えばアメリカやヨーロッパで生まれた映画や文学に興味がある人は多くおり、また同時に「白人=カッコいい」という固定概念を持っている人も多くいるでしょう。

これら作品や人々に憧れがあるのであれば、彼らが話す「英語」という言語にも憧れを抱くのは当然の話です。

英語以外では、韓流ドラマや韓流スターが好きな人が、韓国語を勉強したくなるのは自然な流れであることを考えればわかりやすいのではないでしょうか。

理由③ 英語コンプレックを植え付けられる環境にあるから

一般的には6年間、最近の学生であれば少なくとも8年間は学校で強制的に英語を勉強してきたはずです。その中には途中で授業が分からなくなり挫折した人も多くいると思います。

一方で英語が得意なことにより就職に有利になったり、周りからの評価が上がったりする例がYoutubeやテレビで数多く取り上げられています。

そのような状況では、「英語が出来たらよりよい人生になるのではないか」と想像する人が現れていもおかしくありません。

また英語学習教材を販売する企業の中には、我々消費者の英語コンプレックスを刺激することで、自分たちの教材を売り込もうとする会社もあります。

それらの企業は、日本人の英語力の低さや英語が出来ることによるメリットを殊更に強調することでもともとある英語コンプレックスを増幅しているのです。

大人になってから母国語と同じレベルになるのはほぼ不可能

しかしなぜ、大人になってからネイティブスピーカーと同等の英語力を目指すことは現実的でないと言えるのでしょうか?

それは一定以上の年齢になってから外国語のレベルが母国語と同等になるのはほぼ不可能とされているからです。

複数の論文や書籍において、大人になってから外国語を勉強しても、外国語のレベルが母国語と同等である人は極めて少ないことが示されています。

「英語ペラペラ=ネイティブと同等の英語力」ではない

英語が流暢に話せる日本人や帰国子女を見ると、彼らもネイティブスピーカー並みの英語力があるのではないかと思いがちですが、実はそのようなことはありません。

彼らの多くは、ネイティブスピーカーと比べて語彙やイディオムのレパートリーが少なく、表現できる内容に大きな制限を受けています。

「CEFR C2=ネイティブと同等の英語力」でもない

英語をはじめとした、外国語のレベルを示す指標としてCEFRがあります。

その中でも最上級であるCEFR C2は「ネイティブに限りなく近いレベルで、非常に高度な英語力を身につけているレベル」とされていています。

このCEFR C2に相当するレベルの英語資格として国連英検特A級、IELT8.0以上、ケンブリッジ英検CPEなどがあります。

しかしこれらの資格を取得できたといって、ネイティブと同等の英語力があると断定することはできません。それぞれの資格には特定の出題範囲や意図があり、その基準を満たした受験者に合格証を与えているに過ぎないのです。

つまり試験には出ない内容や基準(スラングや文化の知識など)においては、ネイティブと同等の英語力を持っていない可能性があるということです。

ネイティブと同等の英語力になるには大きな壁がある

それでは具体的にネイティブと同等の英語力を目指すことがどれだけ「いばらの道」であるか確認してみましょう。

英語学習者がネイティブスピーカーと同等の英語力を目指すときに立ちはだかる壁として、主に以下の4つが挙げられます。

  • 語彙力・イディオムの壁
  • 発音の壁
  • 表現力の壁
  • 文化理解の壁

一般的にこれらの壁について、英語学習者とネイティブの間には以下のような差があるとされています。

  英語学習者(中級者) 英語学習者(上級者) ネイティブ
語彙力(英単語のみ) 5000~8000語 10000~15000語 25000~32000語
発音 発音や抑揚に課題あり
(ELSA約70%)
発音に誤りが少ない
(ELSA80~90%)
発音に違和感がない
(ELSA97%)
表現力 句動詞を時々使える。イディオムはほとんど使えない。 一部のイディオムを理解できる。 海外ドラマを完璧に理解できる
文化理解 世界中で流行っているものなら知っている。 英語圏の流行語の一部を聞いたことある。 現地の流行語やミームを理解している。

※英語学習者(上級者)はTOEIC L&R 950点や英検1級程度のレベルの学習者を示しています。

ここで注目したいのは一般的に英語が得意とされる上級レベルの英語学習者であってもネイティブスピーカーとの間で埋めがたい差があるという事実です。

英語学習に相当のリソースを割いてきた彼らであっても、ネイティブレベルへの道はまだ半ばなのです。

1つや2つの壁であれば突破できる人もいるかもしれませんが、すべての要素をネイティブと同等にそろえる事は至難の業でしょう。

それぞれの壁についてもう少し詳しく解説します。

壁その① 語彙力・イディオムの壁

まず第一に、語彙力においてネイティブスピーカーと英語学習者の間では大きな格差があります。

Preply(旧Chack your vocab)における調査では、ネイティブスピーカーの語彙数は25000~32000語とされています。一方非ネイティブの語彙数の最頻値は4500語であり、ネイティブスピーカー並みとされる20000語以上の語彙数を持つ学習者は3%以下にとどまります。

つまりネイティブスピーカーと平均的なレベルの英語学習者の間で語彙数の差は約5倍もあるのです。

しかもネイティブスピーカーの英語学習者の間には語彙数の差だけではなく、イディオムの知識にも大きな差があります。

イディオムの中には、一つ一つは基本的な単語の組み合わせでも組み合わさることで全く異なる意味が生まれるものがあり、多くの英語学習者はこのイディオムの知識が大きく不足する傾向にあります。

壁その② 発音の壁

発音は、最もネイティブスピーカーと非ネイティブの差を感じやすい要素ではないでしょうか。語彙や表現が初心者レベルであっても発音が流暢であればネイティブスピーカーと勘違いされることもあると思います。

発音の良さについては、学習開始時期や元々のセンスに依存するものがあり、ネイティブレベルに容易に近づける人もいれば、中々発音が改善できない人もいます

壁その③ 表現力の壁

語彙力や発音ほど目立つことはありませんが、ネイティブスピーカーと英語学習者の間には表現力に大きな差があります。

一般的に外国語の勉強では、文法の規則通りにその言語が使いこなせることが求められます。そのためどうしても表現がフォーマルな内容になりがちです。例えるならば「NHKのアナウンサー」のような話し方です。

しかしネイティブスピーカー同士の英会話ではそのような堅苦しさはありません。彼らは倒置や省略などを自然に使いこなすことで、カジュアルな会話が出来るのです。

このようなカジュアルな内容に対応した表現力を身に着けることは、机に向かう学習だけでは難しいことでしょう。

また英会話教室に通ってもこのようなカジュアルさを身に着けることはできません。なぜなら英会話の先生は生徒が理解できるように手加減をすることがほとんどだからです。

壁その④ 文化理解の壁

その国の言語と文化には深いつながりがあることは言うまでもないでしょう。

英語圏における笑いのツボや人気のお菓子や有名人を知ることは、英語学習で身に着けることは極めて困難です

またTOEICや英検などでもこれらの知識は問われることはありません。なぜなら試験は受験者の文化的背景によって点数に差が出ることを意図的に避けているからです。

また日本でも古い流行語が死語とか時代遅れと揶揄されるように、英語圏においても常に流行語は変化しています。

つまりある時期にいくら英語を勉強したとしても、現地に住んでいたり英語で常に情報を集めていない限り、ネイティブスピーカーと全く同じ気持ちで英語を話すことは不可能なのです。

本当にネイティブレベルになる必要があるか考えよう

ここまで、大人になってから英語を勉強している人がネイティブと同等のレベルになるという目標が極めて達成困難なことを説明しました。

そこで果たして膨大な努力量を投じて本当にネイティブレベルの英語力を目指す必要があるか考えてみましょう。

私の意見としては、ほとんどの英語学習者はネイティブレベルを目指すべきではないと考えています。その理由は以下の3つです。

理由① ビジネスや国際交流にネイティブと同等の英語力は正直必要なし

英語が第一言語である人が少ないという事は、英語は話せるがネイティブと同等ではない人が多く存在していることを意味しています。

つまり彼らと会話をするときにネイティブ並みの発音や英語圏でのみ使われるスラングを使う機会はほぼありません。

むしろ多くの国籍の人と交流を図るのであれば、非ネイティブにも伝わる英語を話す必要があるかもしれません。

理由② 非ネイティブスピーカーの方が人口が多い

英語話者の内、英語が第一言語である人は2割にとどまることが明らかになっています。つまり8割以上の人が学校などで英語を勉強して話せるようになっていることを示しています。

また中国や韓国など、英語は公用語ではありませんが、学生時代に一所懸命勉強することで、英語で円滑に意思疎通が出来るようになった人も多くいます。

要するに英語という言語においては、ネイティブスピーカーより非ネイティブの方が人口としてはメジャーであるのです。

理由③ 上級者ほど英語学習に対するコスパが著しく低下

上級者がさらに英語学習を続けて、ネイティブと同等の英語力を目指すことは、同時通訳者など一部の職業を除く多くの人にとって英語学習に対するコストパフォーマンスを大きく低下させると考えています。

一般的には、英語学習においては学習の初期によく使う文法や英単語を学び、後半になるに従って、マイナーな英単語やイディオムを勉強することになります。

つまり勉強すればするほど、学習時間に対して得られる目に見える成果は減少していくのです。

ドラクエなどのRPGにおいて後半になるほどレベルを上げるために多くの経験値が必要になることを考えれば理解できると思います。

また発音についても、聞き手にストレスを与えないように一定レベルの正確性を身に着ける必要はありますが、ネイティブと勘違いされるまで練習する必要がある人は少ないはずです。

つまり英語をネイティブと同レベルになるために長時間学習しても、期待した成果が得られない可能性があるため、目指すべき目標を定めて、ある時点で英語学習を「卒業」する必要があるのです。

ネイティブと同等のレベルを目指すべき人とは

それでもなお、ネイティブレベルの英語力を目指すべき人として以下の2つが考えられます。

ネイティブと同等レベルであることがビジネス上必要な人

同時通訳者や英語で文学作品を出版したい人など、英語力を極限まで高めることがビジネスの成功につながる人はネイティブと同等のレベルを目指すべきでしょう。

また英語系インフルエンサーなども、自分がネイティブと同等の英語力を持つことをアピールすることで、視聴者の興味を引くことが容易になるでしょう。本当に彼らがネイティブレベルかどうかという話は別です。

英語圏の文化や慣習を心から愛している人

アメリカやイギリスなど英語圏の文化や慣習を心から愛している人も、英語力を最高レベルまで鍛える意味があると思います。

吹き替え版なんて論外であり、ハリウッド映画で俳優から発せられたセリフこそ至高だとと思っている人であれば、英語だけではなくアメリカの文化についても深く理解する必要があるでしょう。

また日本人の文化や慣習よりも英語圏の方が向いてると考えていて、かつ将来英語圏の国に移住する予定であれば、ネイティブ並みの英語力を突き詰めてもいいかもしれません。

私も「お前は日本人に向いていない」と言われることがありますが、残念ながらいくら英語を勉強していても、日本人のアイデンティティをすべて捨てて、英語圏の人間になる気はありません。

まとめ

今回は英語学習者がネイティブと同等の英語力を目指すことは極めて困難であること、そしてほとんどの人にとって努力に見合った対価が得られないことを解説しました。

英語を勉強する目的や自分が目指したい英語力の目標をしっかりと定めることによって、英語学習の恩恵を最大限得ることができるはずです。

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